一番大事なことは、むし歯にならない様にすることです。
つまり、日頃からむし歯にならない生活習慣を心がけ、予防歯科に取り組みましょう。
むし歯の予防
むし歯の3大要因
むし歯は、口の中に住んでいる細菌が作り出す酸により歯が溶ける病気で、歯科学的にはう蝕(しょく)と呼んでいます。
以前からむし歯は、むし歯菌・歯の質・糖分の3大要因が重なった時にできるとされてきました。
しかし、この3大要因の影響度は個人差が大きく3大要因が揃っても、必ずむし歯になる訳ではありません。
現在はこの3大要因に加えて唾液の性状や分泌量、飲食回数、糖分とむし歯菌が歯についている時間など、多くの要因がむし歯のリスクになると考えられています。
3大要因が揃っていても日頃の生活習慣やケア次第で、むし歯は防げるということです。
ドクターのアドバイス 予防歯科について
患者様は歯が痛くなったり、何らかのトラブルが生じてから歯科医院に来るのが殆どです。
この場合症状に応じて治療を行います。
状態によっては抜歯することも有ります。
できればもっと早い段階で、予防に力を注ぐことで抜歯は避けられるかも知れません。
なるべくなら治療を行わず、予防に重点を置き、口腔内の健康を保つことが大切だと考えています。
歯科治療を受けた後からでも予防歯科に重点を置く事をお奨め致します。
治療後、歯が痛くなくても2~3ヶ月に1回程度のメンテナンスを行い、
普段から予防歯科に心がけて頂きますと歯は悪くならず新たな治療をする必要も無くなります。
ミュータンス菌
むし歯菌の代表はミュータンス菌です。
実はこのミュータンス菌は、生まれたての赤ちゃんの口の中には存在していないのです。
しかし、乳歯が生え揃ってくる1歳半~2歳半頃に感染します。
感染源は、ミュータンス菌を持っているご両親などが口移しで食べものを与えたり、同じ食器や箸、スプーンを使ったりすることが原因とされています。ミュータンス菌が歯に付着し歯垢(プラーク)を作り、食べ物の中に含まれる糖質(とくに砂糖)を代謝し、歯垢の内部で酸を作ります。この酸が歯の成分であるカルシウムやリンを溶かし、むし歯になります。
口のなかに入ったミュータンス菌は食べ物や飲み物に含まれる糖分、特に砂糖を代謝してグルカンというネバネバした物質を生成し、 歯の表面を覆うエナメル質にそれをつけて自分の住む場所を作ります。この細菌の住かが歯垢でネバネバとした状態で歯にくっついています。
ミュータンス菌は住かで飲食物中の糖分を分解して酸を作り、人体でもっとも硬い組織であるエナメル質を溶かし、歯のミネラル分であるカルシウムやリン酸を溶出させます。
これを脱灰(だっかい)といいます。
この脱灰がむし歯の始まりとなります。
※エナメル質が溶け始める水素イオン濃度はpH(ペーハー)5・5の酸性です。
再石灰化と二次う蝕
酸の原料は飲食物中の糖分で、食べたり飲んだりするのをやめれば、酸も作られません。
酸性になった口の中も唾液の働きで中和されます。唾液はリン酸やカルシウムを含んでいますので、
脱灰された歯を修復する働きがあり、この作用を再石灰化と呼んでいます。
私たちのお口の中では飲食のたびに脱灰と再石灰化が繰り返されて、脱灰が起こっても、再石灰化されていれば、むし歯にはなりません。
でも、いつも糖分を口にしている、いわゆる、だらだら食いをしていると、唾液による中和や再石灰化が間に合わず、 脱灰された部分が続きその部分がむし歯に発展してしまいます。
歯垢はできた直後は、歯ブラシでこすれば取れまが、歯みがきが不十分で磨き残しがあると、次第に歯垢の厚みが増し、エナメル質の周囲でバイオフィルムと呼ばれる膜をつくり、 その中で菌が増殖し、唾液はバイオフィルムに邪魔されてエナメル質に触れることができず再石灰化の機能が発揮できなくなります。
一方、歯垢内で作られた酸は拡散しないので、高い濃度でエナメル質を侵し続け、ますます増殖します。ミュータンス菌がいるのは歯垢の中で、むし歯になりやすい歯は、歯垢がつきやすく、また歯を磨いても落としにくい奥歯や、噛み合わせの溝の部分、歯と歯ぐきの境目、隣り合う歯と歯の間の面などです。さらに、大人の場合、治療した歯があると、詰め物と歯の隙間にミュータンス菌が入りこみ治療した歯が再びむし歯になりやすく、 これを二次う蝕と呼んでいます。
唾液の働き
私たちは生きていく為に、お口から飲食を行います。食べ物をよく噛むとその刺激が脳に伝わり、唾液が分泌されます。唾液は「消化を助ける」ほかに口内の環境を守る重要な働きを持っています。
1.溶解作用・・・味物質を溶解して、味覚を促進させる
2.洗浄作用・・・食べ物のカスを洗い流す
3.抗菌作用・・・抗菌作用を含んでおり、病原微生物に抵抗する
4.pH緩衝作用・ pHを一定に保ち、細菌の繁殖を抑える
5.保護作用・・・歯の表面に皮膜を作り、虫歯を防ぐ
6.円滑作用・・・発音や会話をスムーズにする
むし歯の治療
むし歯の進行度による初期の治療法
むし歯の治療法は、主に進行度によって変わります。
しかし、むし歯部分の大きさや状態、患者さんの年齢や生活環境、希望などは一人ひとり異なっているうえ、治療に対するドクターの考え方も反映されるので、同じ進行度でも同じ治療が行われるとは限りません。
例えば、分類上は同じC2でも、C1に近いC2と、C3に近いC2では、むし歯の状態がかなり違います。この場合、前者はC1の治療、 後者はC3の治療に準じた内容になることもあります。
初期むし歯(CO) | 進行したむし歯(主にC1) |
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むし歯になりかけている段階なので、削らないで回復を待つのが原則です。まず歯についた歯垢(プラーク)を除去し、正しい歯みがき法や生活習慣改善の指導を受けて、定期的な検診で様子を見ます。 | エナメル質がむし歯になっているので、う蝕部分を削り、その後、修復材料で埋める。もっとも広く使われている修復材料が、プラスチック樹脂のコンポジットレジンです。これを使った修復をコンポジットレジン修復といいます。 |
より進行したむし歯(主にC2) | さらに進行したむし歯(主にC3) |
むし歯が象牙質まで進んでいる。そこで、う蝕部分をClより大きく削って形を整え、 そこに金属、あるいはコンポジットレジンでできたインレーという詰め物をはめこむ。この治療はインレー修復といいます。 | むし歯が歯髄(しずい:神経)に達し、多くの場合、歯髄に感染が及んでいる。う蝕部分を削った後、歯髄を取り除いて根の中をきれいにする根管治療が行われます。削る部分が大きいので、修復にはコアを作ってクラウンを被せる方法が取られます。 |
非常に進行したむし歯(主にC4) | |
歯冠部が崩壊して、歯の見える部分がほとんど残っていない。できるだけC3と同様に根の治療をしてクラウンを被せますが、抜歯してブリッジ、 入れ歯、またはインプラントを入れなければならないことも多々有ります。このように、むし歯は進行すればするほど、大きく削らなければならなくなります。そうなると、通院回数が増え、治療期間も長くなります。修復材料も高価になります。 できるだけ早くむし歯を発見し、早期に治療を始めることが大切です。 |
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コンポジットレジン修復
C1~C2のむし歯では、エナメル質に穴が開いたり、むし歯が象牙質の表層部に及んでいたりするので、 酸で侵された部分を削って修復材を詰めます。当院では、エアタービン(歯を削る機械)でガリガリ削るのではなく、細かい金属の粉を吹きつけて削ったり、 薬でむし歯を軟らかくしてから、小さな器具で少しずつ掻き出すなど、削り過ぎないための工夫を施した治療を行っています。
詰め物として広く使われているのは、プラスチック樹脂のコンポジットレジンというもので、パテのように軟らかいものですが、特殊な光を当てるとすぐ固まります。
色は数種類ありますので、自分の歯に近い色を選ぶことができ、審美性(しんびせい)にも優れています。このコンポジットレジンを、削った部分に直接詰めるのがレジン修復で、人目につく前歯や、 奥歯でも、噛み合わせ部分だけ浅く削った場合などに行います。
麻酔は不要なことが多く、型を取る必要がないので、通常、1回の治療で終了します。
インレー修復
むし歯が象牙質の中まで進んでいると、削る部分が大きく、深くなるので、レジン修復では対応できないことが多くなり、インレーという部分的な詰め物を使うインレー修復を行います。
インレーは、前歯にも奥歯にも装着できますが、保険診療でできる主なものは、銀色をした金銀パラジウム合金製です。患部が前歯で色が気になる場合は、セラミックを用いたインレーを入れることも出来ますが自費診療になります。
インレーを作るには、まず歯の型を取り、その型に石膏を流しこんで模型を作製し、この模型を使って歯の形に合うインレーを完成させます。歯科技工士に製作を依頼するので、治療は最低2回の通院が必要です。
治療の初日は、局所麻酔をしてむし歯を削り、インレーを入れるために穴の形を整え、歯の型を取ります。その日のうちにインレーを入れることはできませんので、仮の蓋をして帰宅して頂きます。
数日後、インレーを装着し、歯にぴったり合うよう調整します。噛み合わせを確認し、問題がなければ歯科用セメントで固定し、治療が終了します。
歯髄温存療法
進行度がC2でも、C3に近い段階まで進んでいる場合、歯髄(しずい:神経)が炎症を起こしていることがあり、 歯髄を除去する抜髄(ばつずい)を行います。
しかし、象牙質が薄く残っているなら、歯髄温存療法により、歯髄を残せる可能性があります。
これは、むし歯を全部削ってしまうと、歯髄が露出してしまいそうな時にとる方法です。
歯髄が露出すると感染しやすくなるので、あっという間にC3に進む可能性があるからです。
それを避けるために、あえてむし歯を少し残し、象牙質の増殖を促す水酸化カルシウムなどの薬を塗布して、 セメント剤などで蓋をします。後日、蓋を取り、象牙質が十分に増殖していたら、レジン修復を行います。
象牙質の増殖が不十分な時は、もう一度、薬を塗布して蓋をします。
治療期間は長くなりますが、うまくいけば、進行したC2のむし歯がレジン修復で治りますから、メリットは大きいです。
ドクターの解説 MI治療
ミニマルインターベンション(Minimal Intervention)』の略で、歯科治療において生体の持つ自然治癒力を期待する治療で、歯質や歯髄への犠牲を最小限に抑え、悪くなったところだけを削除して修復する治療法です。
従来の基本的な治療法は、虫歯そのものや、虫歯の周辺の歯質を取り除く事を基本とする治療法で、細菌汚染されるているエナメル質や象牙質を大きく削り、虫歯が深い場合は抜髄(神経を抜くこと)を行うもので、自分の歯を大きく失ってしまうことが一般的でした。
さらに、虫歯を治療する際の詰め物に、コンポジットレジン(小さい虫歯治療などに使われる白い詰め物)を使用すると、接着力や強度に問題があり、すぐ外れてしまったり、壊れやすいため、大きく歯を削り金属を使ったインレー修復が一般的に行われていました。
しかし、最近のむし歯治療では“歯を出来るだけ残す”をコンセプトとしています。
コンポジットレジンの接着性が進歩し、金属の詰め物とは違い、むし歯周辺の健康な歯を削らずに行う低侵襲なMI治療を行う歯科医院が増えて来ました。
当院では、低侵襲な治療を行うことを治療方針としております。
従来では、抜髄を行い金属をはめ込むインレー修復が一般的なものでしたが、
MI治療では、神経を残し、コンポジットレジンで修復しています。
ドクターのメッセージ
患者様が訴える声を大切にしております。
患者様がこの歯だけは抜きたくないと訴えている場合、一般的に、臨床的に抜いた方が良いとされる場合でも、医者による一方的な治療は行わず可能な限り患者様の声を尊重し、患者様の思いに沿った治療を行うよう努力をします。
但し、それが他の歯に悪影響を及ぼすリスクが高い場合は、患者様にその事を十分にご案内して、理解を得てから適切な治療を行います。